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猫背から生首まで
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私にはきょうだいがいません。
28年間一人っ子として生きてきて、一番欲しかったものはお兄ちゃんです。
優しくて甘やかしてくれるお兄ちゃん。
誰よりも頼りになる、強くて引っ張っていってくれるお兄ちゃん。
でも特殊な性癖があるために女性にモテないお兄ちゃん。
気付いたら男の人しか好きになれなくなっていたお兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんとの妄想を日々寝る前にしています。
気持ち悪いなと自分でも思います。
でもこのお兄ちゃんがいないと私の精神状態は保てないのです。
そんなお兄ちゃんとの妄想を今回は勇気を出して書き出してみようと思います。
(Twitterでかにちゃんがやってる「妄想彼氏」のパクリです、ごめんかにちゃん)


「お兄ちゃんと私 ~お兄ちゃんが恋人を連れて来た!編~」

私「ただいまー」
兄「おかえりー」

私(あ、誰かいる…)

兄「あのさ、今日ちょっと付き合ってる人連れてきたから」
私「えっお兄ちゃん彼女いたの!?(がーん)」
兄「いや、彼女っていうかなんていうか」

兄恋人「あっ、こんにちは、げんぱつちゃんね。タマっていいます」
私(えっヒゲ生えてる…)

兄恋人「タマは金玉のタマよぉ~よろしくね☆」
兄「しょっぱなから下ネタ飛ばすなや…ドン引きしとるやろ」
私「えっお兄ちゃんえっ」
兄「うん、そういうことなんだ。今まで黙っててごめん」
兄恋人「



だめだここまで書いて自分で恥ずかしくなってきたやめよう…
こういう妄想をリアルにしています。
因みにお兄ちゃんは6歳上のそこそこ売れてるエロ漫画家(ロリ専門)という設定です。

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 小学二年生の冬、父が死んだ。夜の十二時をまわっていたが、当時から寝つきが悪くほとんど眠ることをしなかった私は、母と弟の七瀬の隣で横になっていた。七瀬はまだ一歳にも満たない赤ちゃんだった。ぐにぐにと唇を動かしながら母のおっぱいを幸せそうに飲んでいた。受話器を置いたあと、何も言わずに母が手を洗いにいったことをよく覚えている。母は軽度の強迫神経症で、精神的に不安定になると指の先から二の腕まで丁寧に洗わないと気が済まない人だった。目の前からおっぱいが消えたショックで七瀬は泣き叫んでいたけれど、私にはそれをどうすることも出来ず、ただ「なかよし」という漫画雑誌を読んでいた。母は三十分経っても四十分経っても洗面所から出て来なかった。七瀬はそのうち諦めて寝てしまった。いつまでも部屋の中に水の音が響いていた。母が洗面所から帰ってきた時にはほんのりと眠気が降りてきていたけれど、母の顔を見てまた目が冴えてしまった。母は、真っ青な顔に真っ赤な目を二つくっつけて、引き攣った笑いを浮かべていた。その顔を見た私には恐怖しか湧かなかった。
「まぁちゃん、お父様はもう帰ってこないわよ」
 母は、私の目を見ずに言った。顔はこちらを向いていても、目線は私の頭をすり抜けてずっとずっと遠くにあった。母の手は赤を通り越して紫色に変色していた。私はうなずくことしか出来なかった。
 二日後に通夜が、三日後に父の葬式が行われた。父は当時五十二歳で、名前も知らないどこかの飲み屋のオネーチャンとセックスしている最中に死んだ。心筋梗塞だったか、脳梗塞だったか、どっちにしろあっという間に死んでしまって、父と繋がっていたオネーチャンはさぞかしびっくりしただろう。母はオネーチャンとお話したいと言っていた。大事な人の最後を看取ってくれた人だからお礼を言いたいと。馬鹿げている、と思ったけれど、私は何も言わなかった。小学生の娘が止めたところで母は聞かないだろう。
 父の浮気は日常茶飯事で、家に帰ってくることもほとんどなかった。棺に入った父の顔を見るまで、私は父の顔を思い出せなかった。目を閉じた薄紫色の顔を見て、あーあなたでしたか! と納得した。七瀬が生まれてからは多分十日も帰っていない。死ぬ前に父の頭には誰の顔が浮かんだんだろう。やっぱり飲み屋のオネーチャンだろうか。
 父にとって母は三人目の奥さんで、一人目と二人目の奥さんの間にそれぞれ息子が一人ずついた。二十六歳のたろうくん、十九歳のひろむくん。昔の奥さんは葬式には来なかったけれど、たろうくんとひろむくんは来てくれた。このとき私は初めて二人の兄に会った。たろうくんの目と、ひろむくんの声は父にそっくりだった。二人は私を見るなり
「うわー、やっぱ似てるわー」
 と笑った。具体的にどこが似てるかは教えてくれなかったけれど、日ごろから母に
「まぁちゃんはお父様にそっくりね」
 と言われていたので、そのことを指摘されたのだろう。たろうくんとひろむくんは喪主で忙しい母の代わりに七瀬の面倒をよく見てくれた。人見知りが激しかった私は三人の輪の中に入って行けず、斎場の控室の隅っこに正座して家から持って来た「なかよし」を読んでいた。何度も何度も読み返したたためにほとんどの漫画のセリフを暗記してしまい、その分学校で習った九九を思い出せなくなってしまった。時々たろうくんとひろむくんのどちらかがそばに来て何かを話してくれたけれど、口からは漫画のセリフしか出て来なかったために変な顔をされた。
「まぁちゃん、お腹すいてない?」
「この紋章のためにあなたは自らの命を神に捧げることが出来ると申すのですか!」
 そのうちたろうくんもひろむくんも黙って私のそばにおせんべいやらいなりずしやら都こんぶやらを置いて行くようになった。七瀬はすっかり二人に懐き、母のおっぱいのことなど忘れてしまっていたようだった。
 父はよくわからない宗教の幹部だったらしく、葬式には物凄くたくさんの人が訪れた。その人たちは皆七瀬を見て
「これがあの…」
 とばかり呟いていた。あの何なのかは聞き取れなかった。聞こえていたのかもしれないけれど、私の頭の中は漫画のセリフでいっぱいだったので聞いたそばからこぼれ落ちてしまっていた。母はそのたびに深々と頭を下げた。父が死んだ日から目はずっと遠くを見たままだった。
 葬式のあと、大人はみんな火葬場に行ってしまった。私と七瀬とひろむくんは「成人していないから」という理由で斎場に残されてしまった。「子どもが見るもんじゃない」と知らないおじさんが言っていたので、よほど何かすごいことをするのだと思った。豚の丸焼きならぬ父の丸焼きにして、その肉をみんなで少しずつ分け合うとか。よくわからない宗教の幹部だし、きっとそれくらいのことはするのだろう。
 控室に敷かれた畳の上で七瀬は寝てしまったので、私とひろむくんはとても気まずい雰囲気になった。なかよしを読もうと思ったけれど、何度も読み返したあまりぼろぼろになってしまっていたため、母が捨ててしまったようだった。私はひろむくんの顔を初めてちゃんと見てみた。母親に似たのだろうか、父にはあまり似ていない気がした。ひろむくんの髪の毛は金色で、根本が黒かった。
「その髪の毛、染めてるんですか?」
 初めてまともに私が言葉を発したせいか、ひろむくんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしていた。
「染めてる、っていうか、抜いてる」
 抜いてる? 私の頭の中に髪の毛をぶちぶちと抜き続けるひろむくんの姿が浮かんだため、笑いが込み上げてきていきなり噴き出してしまった。それを見たひろむくんは、一瞬間を置いて笑った。二人でけたけたと笑っているうちに日が暮れ、母とたろうくんが斎場に帰ってきた。七瀬はまだ寝ていた。七瀬の寝顔と父の死に顔はそっくりだなあと思った。それをひろむくんに伝えると、またけたけた笑った。
「まぁちゃん、お兄ちゃんにありがとう言って。帰るわよ」
 母にそう促され、たろうくんとひろむくんに礼を言おうとしたが「ありがとう」の五文字が出て来ず、結局「ごちそうさまでした」と言ってその日は別れた。たろうくんもひろむくんも笑っていた。七瀬は家に帰ってもそのまま眠り続け、翌朝まで起きなかった。母の目は時々こちらを向くようになった。私はまた九九を覚え始めた。


つづく

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「わたしの名前を知らないあの子」

 わたしは高校二年生です。毎朝私鉄電車に乗って学校に通っています。家を出るのは六時五十五分です。駅まで歩いて八分掛かるので、家から一番近い駅に七時三分頃に着きます。駅の階段を上り、改札をくぐってホームに着くのは七時七分頃。七時十分の急行電車に乗ります。電車は急行だと三十二分、普通だと五十分かけて学校の近くの駅に着きます。朝だけど逆の方面に行く電車に乗る人の方が圧倒的に多いので、ぎゅうぎゅう詰めの満員電車ということにはなりません。
 席が空いていても、わたしは座ることはしません。以前、隣に座っていたスーツを着た男性に「このあとどうですか、十分で諭吉一人、三十分で諭吉五人渡します。この次の駅で降りましょう。駅のトイレで行うプレイというのもなかなか乙なものですよ」と延々言われ続け、固まったまま動けなくなってしまったからです。世の中にそういった男性が存在することは知っていましたが、実際に自分が遭遇してみると何とも言えない恐怖に駆られて吐き気がしました。男性はゆっくりとわたしの太ももを撫でました。全身が粟立ち、毛穴という毛穴から「拒絶」という言葉が棘を持って流れ出して行くようでした。顔は真っ青になっていたことでしょう。イヤホンをして目をつぶっている人、窓の外を眺めている人、本を読んでうつらうつらしている人、きっと誰もわたしの危機に気付いてはくれません。
 次の駅での乗り換え案内が流れます。おそるおそる顔を上げると、じっとこちらを見ている女の子がいました。いつも同じ電車に乗っている、端正な顔立ちをした女の子です。見覚えのあるセーラー服を着ているので、同じ年の頃なのでしょう。大きな黒目に長くまっすぐな髪の毛、身長は高くなく、きっとわたしと変わらない。彼女はいつからこちらを見ていたのでしょう。わたしが絶望の表情でSOSを求めても、顔色一つ変えずにずっとこちらを見ています。動くことは多分有り得ない。彼女と目が合ったまま隣の男性に脚を撫でられ続け、私の心臓は今までで一番大きな音を立てていました。早く、逃げなきゃ、早く、早く、ここから脱出しなきゃ、何で何もしてくれないの? 助けてよ、お願い、早く、早く、早く。
 次の瞬間、電車の乗務員さんが男性の肩を叩きました。
「そちらの女性はお連れの方ですか? 顔が真っ青ですが、大丈夫ですか?」
「いや、あの、その」
 男性の手が離れた瞬間を見計らって立ち上がると、乗務員さんが男性の肩を掴み「次の駅で降りていただいてよろしいですか」と声を掛けました。男性の顔はわたしと同じくらい真っ青でした。
 次の駅ではわたしも一緒に降りて事情を説明しなければならないようでした。二月だというのに全身が汗で濡れて、肌が衣服に触れるたびに冷たく気持ちの悪い感触がします。降りる前に先ほどの女の子の顔を見ましたが、こちらに背を向けて立っていたため表情は分かりませんでした。
 それ以来、わたしは電車で座席に座らないようにしているのです。あの女の子とは毎日同じ時間、同じ車両に乗り合わせますが、未だに会話を交わすことも、彼女の名前も知りません。


来週につづく!

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 猫背ちゃんは名前の通り立派な猫背だった。猫もびっくりの正統派猫背。しなやかなその曲線は、すれ違う人たちを釘付けにした。その町に猫背ちゃんにかなう猫背はいなかった。猫背ちゃんは学校から帰ると毎日飼い猫の「えんがわ」に猫背のレクチャーをした。一人っ子の猫背ちゃんにとってえんがわは唯一心を許せる相談相手だった。
 時は過ぎ、猫背ちゃんは進学で町を離れることになった。といっても隣の県だし、電車で一時間もあれば通える距離だ。猫背ちゃんはえんがわと離れるのが寂しくて実家から学校に通おうとしたが、ちょうどそのタイミングで猫背ちゃんの母親が再婚をし新しい父親が家に住みついていたため、猫背ちゃんはやむなく家を出ることとなった。1DKの狭いアパートにえんがわは連れて行けなかったので、母親に世話を頼んだ。新しい父親と二人で幸せそうな顔をした母親を見るのは悪い気持ちはしなかった。
 入学式の日、猫背ちゃんはびっくりした。猫背ちゃんレベルの猫背がそこらじゅうにごろごろいる。むしろ猫背ちゃんなど歯が立たないくらいの猫背もたくさんいた。猫背ちゃんは自分の無知さにくらくらした。井の中の蛙とはまさしくこのことだ。猫背ちゃんは落ち込み、毎週末は実家に帰ってえんがわに愚痴を吐いた。そのたびに猫背ちゃんの猫背には磨きがかかっていった。えんがわは何も言わずに話を聞いてくれた。猫背ちゃんにとってえんがわだけが生きがいだった。もう猫背なんてやめようかな、そう思っていた矢先だった。
 猫背ちゃんの前に猫背くんが現れた。猫背くんは猫背ちゃんの最も理想とする猫背の形をしており、猫背くんの背中を見るたびに心がときめいた。これを恋だと気付けないほど猫背ちゃんも疎くはなく、毎日猫背くんの背中を目で追いながら過ごしていた。週末も実家に帰ることは少なくなり、学校に行って猫背の研究をすることが増えた。猫背くんも毎週学校に出てきていたので、二人が仲良くなるのにそう時間はかからなかった。
 猫背ちゃんと猫背くんの身長差は約十センチ。猫背くんと猫背ちゃんが背中を丸めて歩いていると、学校中の生徒たちが振り返る。それほどに二人の猫背は完璧だった。一人でいるときよりも、二人でいるときの方が猫背が際立って見えた。お互いに欠点を上手くカバーし合っているからだった。猫背ちゃんと猫背くんはいつも顔を近付けてごにょごにょとしゃべった。二人にとってそれが一番幸せな時間だった。
 卒業間近になった一月の寒い日、母親から猫背ちゃんの携帯電話に連絡が入った。どうやらえんがわの体調が良くないらしく、もう先は長くなさそうだという。えんがわはその年で十八歳になっていたので、猫としては大往生であった。物心ついたときからそばにいて、猫背ちゃんの話を聞いてくれていたえんがわの死が近いことを受け入れるのは苦痛以外のなにものでもなかったが、猫背くんに話をすると「急いで実家に帰ろう!」と言って猫背くんの運転する車で実家まで送ってくれた。えんがわは猫背ちゃんと猫背くんの姿を見て「にゃあ」と鳴き、それからしばらくして静かに息を引き取った。猫背ちゃんはえんがわを抱いてわんわん泣いた。その姿を見た猫背くんは、寄り添うことしか出来なかった。
 その夜、結構な量の雪が積もっていたため、猫背ちゃんと猫背くんは実家に泊まることにした。母親も新しい父親も猫背くんの猫背をたいへんよく褒めてくれ、猫背くんの人柄も気に入ってくれたようだ。猫背ちゃんと猫背くんはかつて猫背ちゃんの部屋だった二階の四畳半の部屋に布団を敷き、手を繋いで眠った。ヒーターを消すと布団から出た顔が凍りつきそうになるほど寒い夜だった。猫背ちゃんはえんがわの夢を見た。「もう心配せんでええよ、あんたの猫背は世界一やで!」とえんがわは笑っていた。明け方目が覚めると、涙で顔が凍っていた。それをぺろぺろと舐める感触があった。これはえんがわだと思った。そのまま猫背ちゃんはまた眠りについた。
 翌朝、猫背くんの運転で学校がある町へ帰る途中、猫背くんは昨日見た夢の話をしてくれた。猫背くんの夢にもやはりえんがわが登場して、「二人で宇宙一の猫背目指してや!」と言われたと笑った。そして家に帰り着き「一緒に猫背で幸せになろう」と猫背ちゃんにプロポーズをした。猫背ちゃんは泣きながら「はい」と返事をした。
 猫背くんは今、完璧な猫背を作るためのプロテクターを作る会社でデザインをしている。猫背ちゃんのお腹には双子の猫が宿った。出産予定日は奇しくも一月だ。妊婦の猫背ちゃんはより一層背中を丸め、猫背くんの帰りを待っている。えんがわはもう夢に出てきてはくれないけれど、えんがわが褒めてくれた猫背はまだまだ健在だ。




「りんぱ」「まぐろ」「猫背」三部作終わり。
なんかよくわかんないけど最後いい話になったからいいや…

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「まぐろちゃんの自殺教習」

 地下鉄がホームに入って来る風で思わずよろけてしまうほどに私の命は軽い。よろけた瞬間、背後に立っていたトイレの芳香剤のような香水のにおいを振りまいた和服のおばちゃんに舌打ちをされ、今日も私のHPは削られていく。ごめんなさい。その声はきっと彼女には届いていないのだろう。私を押し退けるようにして地下鉄の車両に乗り込み、空いている席を目掛けて突き進んでいく。目の前でドアが閉まる。あっ、と声を出す間もなく電車は動き出す。ホームに取り残された私は、次の電車をまた待つことにする。
 ホームにはすぐに人が集まってくる。次に私の後ろに並んだのは、四角い大きなボストンバッグを持った男子高校生。汗と制汗剤の混ざったにおい。イヤフォンから漏れる一定のリズム。携帯電話の画面を見つめたその顔には、いくつかの赤いにきびがある。正面を向き直し次の電車を待つ。
 今日で何日目になるのだろう。私は毎日この駅のホームに立ち、同じ時間、同じ場所で飛ぶ瞬間を待っている。その気になればいつだって飛べる。次は。次こそは。ここから飛ぶことを強く念じる。次こそは飛ぶ。飛んでやる。そう考えてもう何日も経ってしまった。頭の中では何度も飛んだ。繰り返しシミュレートすることで、なぜか飛ぶタイミングはどんどん遠くなっていった。頭の中では何人もの私が死に、ばらばらになってホームを赤く染めた。首が、腕が、足が、頭が、傷付き吹き飛ばされてゆるやかに時間が止まる。着地した時点でアウト。私はもうそこには存在しない。そこにあるのは肉の塊だ。
 また地下鉄がホームに入ってくる。私は目を閉じる。今だ! 飛べ! しかし私の両足は、見えない何かに掴まれたようにその場から動くことが出来ない。また飛べなかった。また死ねなかった。また自由になれなかった。また生きてしまった。
「乗らないんですか?」
 男子高校生が低い声で聞く。
「あ、乗ります。すみません」
 彼の言葉で足が動くようになった。でも私が向かう先は線路の上ではなく車両の中だ。いいや、明日飛ぼう。明日が駄目だったら明後日飛ぼう。いつだって飛べる。その気になればきっと。
 向かいの席に座った男子高校生は床にボストンバッグを置き、腕を組んで目を閉じている。終点まで行くのだろうか。浅黒く焼けた肌には、ところどころかすり傷がある。
 私が女子高生だった頃、彼のような男子は周りにたくさんいた。適度に部活に励み、それなりに勉強をして、たまに彼女を作ったり別れたりする。制汗剤のにおいと青いあぶらとり紙。日に焼けた肌、短く刈った黒い髪の毛。あれから十年近く経った今、彼らのような男の子たちは私の周りにいなくなってしまった。当たり前だ。みんな大人になってしまったのだから。似た色のスーツに身を包み、髪の毛は少しだけ伸ばして、黒かった肌の色はくすみ、低い声は私の知らない単語を発する。
 みんな大人になってしまった。みんないなくなってしまった。私はまだあのころのままだ。大人になれないままオトナになってしまった。置いてけぼりにされたまま、地下鉄のホームであのころに戻れる日を待っている。
「終点ですよ」
 目を開けると男子高校生が立っていた。
「あ、はい、すみません」
 私は慌てて荷物をまとめ、立ち上がる。彼は表情を変えないまま、私を見ている。
 私が電車から降りても、男子高校生はその場に立ち尽くしたままだった。次の電車が出るまでには少し時間に余裕がある。終点まで来たところで私にはどこにも行くところはなく、この駅にいても入ってくる電車に飛び込むことは出来ない。
 もう一度電車の中に乗り込み座ると、彼は私のとなりに座った。何か話すべきかと思ったが、何を話せば良いのか分からなかったので口を開くことをやめた。彼はまた腕を組んで目を閉じている。
 何人かが乗り込んできて、発車の時刻になった。ゆっくりと時間をかけてドアが閉まり、ごっとん、という音に合わせて地下鉄は動き出す。私は目を閉じてあの駅のホームに立つところを想像する。汗と制汗剤の混ざったにおいが鼻をかすめた。あのころのことを思い出す。そうするとまたもう一人私が死んで、今日も生身の私は生きてしまっている。


タイトルと全く関係ない内容になってしまった!
次週、「猫背ちゃんと猫背くん」に続く!



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「美少女ビッチ りんぱちゃん」

 りんぱちゃんは二十歳の女の子。真ん丸おめめに真っ黒な髪の毛、姫カットのストレートロング。好きなものは男の子とセックスとお洋服とからあげ。いつもフリルやリボンが沢山ついたお洋服を着ているけれど、毎日勝負下着を着けています。常に臨戦態勢のため、ブルマやドロワーズは履きません。そのかわり、ガーターベルトを着けています。スカートを捲った時にこれが見えると、男の子たちはそのギャップに興奮し、よりハードにりんぱちゃんの体を求めて来るようになるのです。
 りんぱちゃんの特技は男の子を慰めること。心が折れたとき、傷付いたとき、男の子たちは皆りんぱちゃんの元にやってきます。
「俺はもうだめだ…」
 彼女にも奥さんにも見せられない顔を、りんぱちゃんにだけ見せるのです。りんぱちゃんは男の子たちを優しく抱きしめ、ゆっくりと頭をなで、胸に顔を埋めさせたあと優しくキスをし、
「もう、大丈夫だよ」
 そう言ってにっこり笑います。男の子たちには、これが一番の特効薬になることをりんぱちゃんはよく知っています。ここまで来たらあとは這い上がるだけ。男の子たちはりんぱちゃんのスカートを捲り、丹念ににおいを嗅いだあと、思い思いの方法でりんぱちゃんの中に入っていきます。りんぱちゃんはこの瞬間が一番幸せだと言います。
「誰かに求められることで私はここにいていいんだ、って感じられるの」
 りんぱちゃんは若干メンヘラの気があるので、時々死にたくなったり、自分の存在意義を見つけられなくなったりします。そういうときには傷付いた男の子を誘惑して、傷の舐めあいをするのです。男の子もりんぱちゃんも結果的に幸せになれるので、この方法はとても合理的だと言えましょう。
 りんぱちゃんの中で果てたあと、男の子たちはりんぱちゃんに別れを告げます。
「明日からもがんばれそうだよ」
 笑って手を振り、彼女や奥さんの元へと帰っていくのです。男の子たちにはちゃんと帰る場所があります。りんぱちゃんの慰みを受けることによって落ち着きを取り戻した男の子たちは、キラキラとまぶしい笑顔を取り戻したあと、りんぱちゃんに背中を向けて去って行きます。この瞬間、りんぱちゃんは少しだけさみしくなります。りんぱちゃんには帰る場所も、帰って来てくれる誰かもいないのです。
「でもまたすぐに誰か来てくれるから」
 強がったりんぱちゃんの横顔は、少しだけ震えていました。りんぱちゃんは甘えられるのは得意ですが、誰かに甘えることは苦手なようです。
 今日もまた男の子が一人やってきました。死んだ魚のような目をした彼は、りんぱちゃんを見るなりその場で嘔吐しました。こんなことは初めてで、りんぱちゃんはびっくりしてしまいました。だってりんぱちゃんは誰よりも可愛く、美しく、スタイルも抜群で、包容力があり母性に満ち溢れていているのです。この世の男の子の大半はスカートを捲ったりんぱちゃんを目の前にすると、そのまま襲い掛かって無理矢理にでも入って来ようとするでしょう。でも、彼はそのような男の子たちとはどこか違うようでした。
「大丈夫ですか?」
 りんぱちゃんは小鳥のような美しい声で男の子に尋ねます。男の子は何も返事をしません。その代わり、りんぱちゃんを一瞥したあとりんぱちゃんの頬を思い切り引っぱたきました。何が起こったのか、りんぱちゃんは全く理解が出来ません。
「触んな、クソビッチ」
 そう言って彼は去って行きました。じんじんと痛む頬に手を当てると、りんぱちゃんの幼い頃の記憶がよみがえって来ました。行き場のない感情をりんぱちゃんで発散していたお母さんの手。理由もなく何度も何度もぶたれたことを、今この瞬間までりんぱちゃんはすっかり忘れていました。でも、彼の一撃で全て思い出してしまったのです。
 りんぱちゃんにはお父さんがいません。お母さんと二人だけの家庭で育ちました。朝から晩まで働くお母さんのことをりんぱちゃんはとても尊敬していましたが、時々暴力的になるお母さんのことは嫌いでした。大好きなのに大嫌い。口の中にじんわりと広がる鉄の味が、忘れたものと思っていた記憶をどんどんどんどん引っ張り出してきます。熱湯が張られた浴槽に何度も頭を突っ込まれ息が出来なかったこと。真冬の夜のベランダに全裸で放り出され、膝を抱えてぶるぶると寒さに耐えたこと。お母さんが寝ている間に包丁を持って何度も枕元に立ったこと。脚がすくんで何も出来なかったこと。それはもう走馬灯のように、りんぱちゃんの頭の中を駆け巡っていきました。
「いやああああああああああああ!!!」
 頭を抱え、りんぱちゃんは叫びます。思い出したくなんてなかった。お母さんのこと嫌いになりたくなかった。大好きなお母さん。私だけのお母さん。行かないで。みんな私の元から離れないで。さみしいよ。ひとりになんてなりたくないよ。おかあさん、おかあさん、おかあさん。
 そしてりんぱちゃんは立派なメンヘラに進化しました。

 次週、「まぐろちゃんの自殺教習」につづく

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※更新したのは1/14(月)です

昨日何も浮かばなくて、今日一日ずっと考えていました。
その結果、いつも似たようなこと書いてるな、と思いながら私はこういう話が一番好きなんだなって気が付きました。
タイトルは思い浮かばなかったので今のところ無しです。



 もうずっと長い間、痛みの中にいました。ここは真っ暗で何も見えません。痛みの海はひたひたと私のすべてを飲み込んで、私という意識を潰そうとしています。最後に言葉を発したのはいつだったっけ。最後に笑ったのは、最後に泣いたのは、最後に人を憎んだのは、いつだったっけ。思い出せない。私はあの日からずっとここにいます。母に殺されたあの日から。

 母にとって私はただの邪魔者でしかなかったこと、物心が付いた頃にはとっくに気付いていました。母は私に虐待や体罰を与えない代わりに、何も与えてはくれませんでした。生きていくのに必要最低限のもの、食事や衣服や寝床は用意してくれましたが、母親が子どもに与えるべき愛情だとか、しつけ、教養、言葉のひとつも、私は与えられることはありませんでした。
 母は私の存在を無いものとして生きていたようです。私ははじめ、自分は耳が聞こえないのかと思いました。母の声が聞こえない。でも、それは私の勘違いで、母が私に向けて言葉を放ったことが一度もなかっただけなのです。では、母は聾唖の者なのか? と次に考えました。しかし夜な夜な連れ込む知らない男たちの前で、母は嬉々として女の声をあげました。私には決して向けられることのない言葉を、軽々しくも母は投げかけます。私はあの豚のような男たちよりも低い立場に存在している、いないものとされている、イコール、ゴミ。母にとって私は捨てるに捨てられないゴミだったのです。捨てられないだけマシだと思った方が幸せなのかも知れません。
 私は家から一度も出たことがありませんでした。古いアパートの二階が私と母の家で、二つある部屋のうちのひとつで私は暮らしていました。部屋は襖で区切られていて、トイレやお風呂は自由に使えましたが、母以外の誰かが家にいる時は部屋から出られませんでした。私は雰囲気でそれを汲み取り、母に言われなくともそれを遵守していました。食事は一日二食、昼前と夜中に母の残飯が部屋に置かれます。冷めた残飯を食べている時は何も考えなくて良いので幸せでした。部屋の中はいつも暗く、冬になるととても寒くて、私はぺらぺらの薄い布団にくるまって一日が過ぎていくのを待ちました。ずっとずっと、そうして過ごしていました。
 私は自分が何歳なのかも知りませんでしたし、もちろん名前もありません。あるのかも知れないけれど、呼ばれたことがないのでわかりません。いつになればここから出られるのか、死ぬまでここにいなければいけないのか、いくら考えても答えは出て来ませんでした。
 もうずっとこのままなのかも知れない。そう思ったある日の夜、私は暗闇に放り込まれました。眠っている間に殺してくれたことこそが、母の最大の愛情表現だったのかなと、今は思えます。私は目を開けることが出来なくなりました。体も自由に動かせません。漂う意識の中で、これがいわゆる「死」であることを悟ります。死んでも意識は残るということを、死んでから初めて知りました。暗い闇の中にあるのは痛みです。どこが痛いとか具体的に説明は出来ないけれど、ただひたすらに痛いのです。最後に残った感情が「痛い」というものだけだったのか、それともここには本当に痛みしかないのか。誰かに聞きたいけれど誰もいません。私はこの闇の中で膝を抱えて途方に暮れるしかなかったのです。

 次に母と対面した時、私は初めてきちんと母の顔を見ました。目尻のしわや頬のたるみが以前よりも増えたようで気になるけれど、それはやっぱり私が知っている母の顔でした。
 母は私に初めて言葉をくれました。
「生まれてきてくれてありがとう」
 そして私の名前を呼び、抱きしめ、涙を流しました。
 また母の子どもとして生まれてしまったのは、不幸なことなのでしょうか。神様は意地悪ですね。次の人生ではちゃんと愛されて過ごしたいです。私を殺した母にそれが出来るのか分かりませんが、もしまた同じことを繰り返すようであれば今度は私が母を殺したいと思います。痛みはまだ取れません。


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プロフィール
HN:
原発牛乳
年齢:
39
性別:
女性
誕生日:
1984/09/21
職業:
おかあさん
趣味:
おひるね
自己紹介:
かわいい女の子の写真を撮ったり行き過ぎた妄想を小説にしたりしています。
名前はアレだけど別にこわい人じゃないです。
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