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猫背から生首まで
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水曜日は昔書いた小説を載せる日!

2010年12月に書いた小説です。
書いた記憶全く無くてびっくりした。


「雪の降った日」

 めったに雪の降ることのない海のそばのこの町に、はらはらと白い綿毛のようなものが舞い落ちて来たのは、今日のお昼すぎのことでした。ずいぶん冷え込んでいましたし、どんよりとした灰色の空は今にも落ちてきそうで、教室の窓の外を雨よりも大きな、白い塊がふわりふわり舞っているのを見て、これは間違いなく雪であると、私を含むクラスメイトたちは大騒ぎしたものです。
 ちょうど給食が終わったあとの昼休みの時間でした。男の子たちは
「雪だー!」
 と叫びながら外に飛び出して行き、そんな男の子たちを見ながら半ば呆れた顔をしつつも、わくわくと胸の底で小人がスキップを始めたかのような、何とも言えない高揚感に満ちた表情で女の子たちは窓の外を眺めていました。
 最後に雪が降ったのは私が生まれる前だったと、おばあちゃんから聞いたことがあります。太平洋岸に面した、冬でも比較的暖かいこの町に雪が降ることなど、本当に稀なことだったのです。つまり私は生まれて初めて雪を見たということになります。本やテレビなどで見ることはあっても、実際体験したことのないこの状況に、私の心は浮かれていました。空から降るその白い物体が雪であると、誰もが信じて疑わなかったのです。
 昼休みが終わるチャイムが鳴り、男の子たちが教室に戻ってきました。皆、鼻を真っ赤にして興奮気味に雪の感想を述べています。
「冷たかった」
「舐めたら少ししょっぱかった」
「なんかちょっとぬるぬるしてた」
 雪に関する情報といえば、「冷たい」と「白い」しか無かった私たちは、感嘆の声を上げながら男の子たちの話を聞いていました。窓の外の雪は少し勢いを増し、量も少しずつ増えています。
「大木、どこ行った?」
 学級委員長の水嶋くんが、辺りを見回しながら言いました。そういえば、先ほどからクラスで一番のお調子者の大木くんの姿が見えません。雪が降り出したとき、真っ先に校庭に飛び出して行ったのは大木くんです。
「まだ外にいるのかな?」
 水嶋くんが窓の外を見ながら首をかしげました。
「ていうかもう授業始まってる時間だよね? 何で先生は来ないんだろう?」
 私の隣にいたリカちゃんが言いました。リカちゃんはクラスで一番仲の良い女の子です。
 皆で一斉に時計の方を向くと、昼休みが終わるチャイムが鳴ってから十五分ほどが経過していました。廊下に一番近い位置にいたえり子ちゃんが、窓を開けて廊下を覗き込みます。
「他のクラスは授業やってるみたいだけど……。誰かほかの先生に言いに行った方がいいのかな?」
 数人が廊下側の窓の付近に集まりました。好奇心を抑えられない私もついつい窓から廊下に身を乗り出します。隣の五年二組の教室からは、学年主任の桜井先生が国語の教科書を読む声が聞こえていました。
 教室の中が一気にざわめき立つのと同時に、雪もどんどんひどくなって行きます。斜めに吹きすさぶほどの強い雪の模様など、ニュースでしか見たことがありませんでした。
「積もるかな?」
 リカちゃんは今のこの状態を面白がっている様子です。にやにやしながら言いました。私はこのおかしな状況に少しだけ恐怖を感じていたのですが、それを悟られることが何だか恥ずかしく思えて、無理矢理笑顔を作って相槌を打ちました。
 五時間目が終わるチャイムが鳴りました。結局担任の山田先生も大木くんも戻って来ませんでした。
 二組の授業が終わったタイミングを見計らって、水嶋くんとえり子ちゃんは桜井先生を呼びとめるため廊下の外に出ました。教室にいた大半のクラスメイトたちがその姿を見ていました。えり子ちゃんのポニーテールのリボン、水嶋くんの少しだけはねた後ろ髪、二人の身長差はほとんど無いように見えました。
 次の瞬間、先に廊下に出たえり子ちゃんの首から上が無くなっていました。勢いよく飛び散る血しぶきと、えり子ちゃんの頭がごろごろと廊下を転がって行く音。私は何が起こったのかわけが分かりませんでしたが、反射的に隣にいたリカちゃんの手を強く握りました。
 間髪入れる間もなく、水嶋くんのお腹を突き破って何かが教室の中に飛び込んできました。口に何か細長いものをくわえて大きな鎌を持ったそれは、今朝見た山田先生の服装と同じ格好をしていました。水嶋くんはお腹から血と内臓のようなものを垂れ流しながら、ゆっくりとその場に倒れました。
 私たちはパニックに陥り、悲鳴、叫び、泣き声、誰かの怒号、そしてなぜか黒板の上のスピーカーからはジリリリリリというサイレンが鳴り始めて、教室は音の洪水に巻き込まれました。私とリカちゃんは手を握ったまま机の下に逃げ込み、体を小さくしてぎゅっと目をつぶりました。
 目を開けてはいけないと思いました。頭の中でおばあちゃんに教わったお経を唱えながら、今が一体どういう状況なのかもわからずに心臓の鼓動がどくんどくんと速く打つその動きを体の中で感じていました。
 山田先生は教室の中をムササビのように飛び回っているようです。びゅんっという風を切るような音のあとに誰かの叫び声、ごろごろと転がる首の音が聞こえ、次第に皆の声は少なくなっていきました。
「ぎゃっ」
 すぐ近くで声がしたかと思うと、握り合っていたはずのリカちゃんの手の力が弱まり、何かべとべとしたものが顔にたくさんかかりました。口の中に少しだけ入ってきたそれは、鉄の味がしました。
 次は私の番だ。もうクラスメイトの誰も残ってはいないようでした。
 ガタガタと音が聞こえるほどに震えていると、スカートの中が濡れているのに気付きました。どうやら恐怖のあまりおもらしをしてしまったようです。目をつぶってはいましたが、私の足元にはクラスメイトたちの血液と漏らしてしまった尿でびしゃびしゃに濡れているのが分かりました。きっと私はこのまま殺されてしまう。
 そのとき、ずっと鳴り続けていたサイレンの音が止みました。それと同時に、私のまぶたの中に強い光が差し込んで来ました。それは目をかたく閉じていても感じられるほどに強烈な光で、その一瞬だけは意識が少しだけ遠くなりました。
 私の意識がどこかへ放り出されている間、私は様々なことを思い出しました。リカちゃんに貸したままのマンガのこと、一年生のとき大木くんに意地悪をされて泣いていたこと、二学期の初めに死んでしまった飼育小屋のうさぎを死なせたのは私だと疑われたこと、山田先生が授業中に「カーッ」と言って痰を吐くようなしぐさをするのが嫌いだったこと、今朝お母さんと喧嘩したまま謝っていないこと、おばあちゃんが「雪の降る日は良くないことが起こるでねえ」と言っていたこと。
 意識がかえってくるのと同時に私は目を開けてしまいました。窓の外の雪はすっかり止んで、強い太陽の光が教室の中を照らしています。おそるおそる周りを見渡すと、首の無くなったクラスメイトたちが大勢横たわっていました。立ち上がろうにも、足元の血の海に足を取られ、なかなか立つことが出来ませんでした。そう、それは血の海と呼ぶにふさわしいものだったのです。
 窓のそばに山田先生が倒れていました。鎌を持ってはいましたが、全体的に黒く焼け焦げていて、生きてはいないようでした。背中には片腕のない大木くんが山田先生の首に巻きつくようにして乗っかっていました。頭はくっついていましたが、真っ黒に焦げて表情など何も分かりませんでした。
 私は這いつくばるようにして窓のそばまで行くと、太陽に照らされた校庭を眺めました。さっきまで降っていた雪のせいで、校庭はたくさんの水たまりが出来ていました。その水たまりの水はどれも赤く、血だまりのようにも見えました。
 教室の中で、一人生き残ってしまった私は、これからどうすれば良いのでしょう。私は途方に暮れました。そりゃあ私はクラスメイトの皆のことが大嫌いで、みんな死んじゃえばいいのに、って毎日願っていたけれどこれはさすがにやり過ぎじゃあないかな、って、そう思えたら何だか笑えてきました。そして山田先生の握っていた鎌を手に取り、首にあて、思い切り横に引きました。自分の首が飛んで行く感覚、冷たい床の血のにおい。最期の記憶を持って私はみんなのいる世界に旅立ちました。何だかんだ言っても、やっぱり私はクラスメイトのみんなを嫌いにはなれないようです。


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プロフィール
HN:
原発牛乳
年齢:
39
性別:
女性
誕生日:
1984/09/21
職業:
おかあさん
趣味:
おひるね
自己紹介:
かわいい女の子の写真を撮ったり行き過ぎた妄想を小説にしたりしています。
名前はアレだけど別にこわい人じゃないです。
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