猫背から生首まで
日曜日は私がいつも妄想している内容を小説という形で書き出す日だよ!
毎週書けば年間で50本以上の新作が生まれるよ!
やったねげんぱつちゃん!妄想が捗るよ!
「赤い血を流したのは」
弟の優月が生まれたのは二月のとても寒い夜でした。今にも雪が降りそうな冷えきった夜で、その日も私は血の繋がっていない父の部屋で服を脱がされていました。それは私と父の間で行われる「秘密の儀式」であり、彼が私の父親になってからずっと行われ続けてきたことでした。
優月が一歳になった頃、中学生だった私は「秘密の儀式」によって子どもを授かりました。父はその日の晩も優しく私を抱きしめ、私の中に射精しました。そして泣きながら「ごめんな」と言い、手を繋いでその日は一緒に眠りました。暗く寒い家の中に、隣の部屋で泣く優月の声が響いていました。
翌日、私は母と病院に行き、翌週には私のお腹はからっぽになりました。そこにいた命は最初からなかったものとして、今後も触れられることはないのでしょう。優月を抱いた母が忌々しげに私を見て、大きな溜息を吐きます。優月はけらけらと笑っていました。私は病院の淡いグリーンの床をじっと見つめることしか出来ませんでした。
優月は肌の色が白く、瞳は濃い茶色で睫毛がとても長い、女の子のような、妖精のような、はたまた天使のような、そんな男の子でした。誰からも愛され、母の愛情を一身に浴び、それを当然のことと思って疑わない。ごく当たり前の景色が、優月の周りには流れていました。私はそれとは正反対で、目は腫れぼったい一重だし、睫毛自体があまり生えず、全体的に骨太でもっさりとした印象のどこにでもいる女子中学生でした。実の父親にそっくりだと母によく言われたものです。
私は優月のすべてが羨ましかった。愛情とは何かを引き換えにしか得られないものだと思い込んでいた私を、優月はどんどん裏切って行きました。無償の愛、と呼ばれるものが、母と優月の間には存在していたのです。そこに私が入り込む余地など到底無く、いつも暗い部屋の隅で膝を抱えて過ごす自分の姿を想像していました。実際にはきちんと私の分のごはんや寝床もありましたし、衣服に困ったこともありません。でも、私の頭の中にいる膝を抱えた少女は、いつまで経っても私の中から消えてくれることはありませんでした。
優月が小学校に入学してすぐ、母が入院しました。もともとあまり体が丈夫でなかった母は、余命宣告をされベッドの上でよく泣くようになりました。
「優月のこと頼むね」
そう言いながら死んでいった母の目に、最期まで私の姿は映っていなかったように思います。お母さん、あなたにとって娘とはどんな存在だったのでしょう。母は「秘密の儀式」について薄々感付いていたのかも知れません。秘密が秘密でなくなったとき、母は私を娘ではなく、ただの「女」として認識するようになったのではないでしょうか。
母の趣味で髪の毛を伸ばし、女の子のように育った優月は、同級生の男の子たちから「気持ち悪い」といじめに遭い、学校に行かなくなりました。大学生になった私は、母の死といじめとで情緒不安定になった優月を慰め、家で勉強を教えたりして一緒に過ごす時間が増えていきました。優月は本当にかわいい。なぜ男の子として生まれてきてしまったのか、神様がうっかり間違えてしまったのではないかと首を傾げるほどに、どこまでも女の子でした。華奢な骨格も、ころころと変わる表情や仕草も、女の私には備わっていないものでした。私は優月にふわふわしたスカートやピンク色のワンピースばかりを着せ、彼を女の子として扱いました。私がなりたかった「女の子」。私がなれなかった「女の子」。それを優月に投影していたのも知れません。
しかし楽しい時間というものは長くは続かないもので、優月が十二歳になった頃から少しずつ彼の体に変化が訪れ始めました。第二次性徴期。水滴がころころと転がるように可愛らしかった優月の声が、だんだんと曇り始めていきました。初めは良かったのです。大人の女性に近付くと声が低くなる。ほら、私だってそうでしょう? 優月みたいにかわいい声でもう話せないもの。そう言ってなんとか誤魔化していました。しかし優月は見てしまったのです。私が毎月血を流していることを知ってしまった。トイレに鍵をかけておかなかった私が悪いのです。下着を下ろした私と鉢合わせてしまった優月は、てっきり私が病気になったものと思い込んで、その場で大粒の涙を流しました。
「死なないで。私をひとりにしないで」
そう叫びながら泣く優月の姿はとても艶っぽく、私はドキドキとした興奮を抑えるのに必死でした。優月は、私が母のように死んでいなくなってしまうと思ったようです。優月の肩を抱き、頭を撫でると、首筋からほんのり母と同じにおいが香った気がしました。迷いましたが、私はその場しのぎの嘘をついてまた誤魔化すことにしました。大人の女性には月経というものがあること、優月も近いうちに血を流し始めるのよ、と。
しかしいつまで経っても優月の脚の間から血が流れることはありませんでした。
十五歳になった二月の寒い夜、優月は暗い浴室で自分の性器と頸動脈、手首、足首、太ももに剃刀でいくつもの傷を付け、沢山の血を流して死んでいきました。早朝、私が彼の姿を発見した時にはすでにこと切れていて、排水溝に詰まった優月の長い髪の毛には精液が白くこびりついていました。
ピンク色のワンピースの下で赤黒く変色した優月の性器に私は頬ずりをし、まだ少し熱の残る体を力いっぱい抱きしめます。私は優月のすべてが羨ましかった。可愛かった。でも、頭の中の膝を抱えた少女はずっと優月のことを妬んでいた。私がなれなかった「女の子」になっていく優月の姿が、目障りで仕方なかった。優月を殺したのは私の中の少女でした。
四十九日が済んだあと、私は二ヶ月間生理がきていないことに気が付きました。父は未だに私との「秘密の儀式」をやめません。お腹の中の子どもはきっと優月によく似た男の子でしょう。
私の復讐はいつになったら終わるのだろうと途方に暮れながら夕闇に包まれた町の中を歩きます。ふと見上げた春のはじめの丸い月は、とても優しい色をしていました。
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原発牛乳
年齢:
39
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女性
誕生日:
1984/09/21
職業:
おかあさん
趣味:
おひるね
自己紹介:
かわいい女の子の写真を撮ったり行き過ぎた妄想を小説にしたりしています。
名前はアレだけど別にこわい人じゃないです。
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