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猫背から生首まで
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 猫背ちゃんは名前の通り立派な猫背だった。猫もびっくりの正統派猫背。しなやかなその曲線は、すれ違う人たちを釘付けにした。その町に猫背ちゃんにかなう猫背はいなかった。猫背ちゃんは学校から帰ると毎日飼い猫の「えんがわ」に猫背のレクチャーをした。一人っ子の猫背ちゃんにとってえんがわは唯一心を許せる相談相手だった。
 時は過ぎ、猫背ちゃんは進学で町を離れることになった。といっても隣の県だし、電車で一時間もあれば通える距離だ。猫背ちゃんはえんがわと離れるのが寂しくて実家から学校に通おうとしたが、ちょうどそのタイミングで猫背ちゃんの母親が再婚をし新しい父親が家に住みついていたため、猫背ちゃんはやむなく家を出ることとなった。1DKの狭いアパートにえんがわは連れて行けなかったので、母親に世話を頼んだ。新しい父親と二人で幸せそうな顔をした母親を見るのは悪い気持ちはしなかった。
 入学式の日、猫背ちゃんはびっくりした。猫背ちゃんレベルの猫背がそこらじゅうにごろごろいる。むしろ猫背ちゃんなど歯が立たないくらいの猫背もたくさんいた。猫背ちゃんは自分の無知さにくらくらした。井の中の蛙とはまさしくこのことだ。猫背ちゃんは落ち込み、毎週末は実家に帰ってえんがわに愚痴を吐いた。そのたびに猫背ちゃんの猫背には磨きがかかっていった。えんがわは何も言わずに話を聞いてくれた。猫背ちゃんにとってえんがわだけが生きがいだった。もう猫背なんてやめようかな、そう思っていた矢先だった。
 猫背ちゃんの前に猫背くんが現れた。猫背くんは猫背ちゃんの最も理想とする猫背の形をしており、猫背くんの背中を見るたびに心がときめいた。これを恋だと気付けないほど猫背ちゃんも疎くはなく、毎日猫背くんの背中を目で追いながら過ごしていた。週末も実家に帰ることは少なくなり、学校に行って猫背の研究をすることが増えた。猫背くんも毎週学校に出てきていたので、二人が仲良くなるのにそう時間はかからなかった。
 猫背ちゃんと猫背くんの身長差は約十センチ。猫背くんと猫背ちゃんが背中を丸めて歩いていると、学校中の生徒たちが振り返る。それほどに二人の猫背は完璧だった。一人でいるときよりも、二人でいるときの方が猫背が際立って見えた。お互いに欠点を上手くカバーし合っているからだった。猫背ちゃんと猫背くんはいつも顔を近付けてごにょごにょとしゃべった。二人にとってそれが一番幸せな時間だった。
 卒業間近になった一月の寒い日、母親から猫背ちゃんの携帯電話に連絡が入った。どうやらえんがわの体調が良くないらしく、もう先は長くなさそうだという。えんがわはその年で十八歳になっていたので、猫としては大往生であった。物心ついたときからそばにいて、猫背ちゃんの話を聞いてくれていたえんがわの死が近いことを受け入れるのは苦痛以外のなにものでもなかったが、猫背くんに話をすると「急いで実家に帰ろう!」と言って猫背くんの運転する車で実家まで送ってくれた。えんがわは猫背ちゃんと猫背くんの姿を見て「にゃあ」と鳴き、それからしばらくして静かに息を引き取った。猫背ちゃんはえんがわを抱いてわんわん泣いた。その姿を見た猫背くんは、寄り添うことしか出来なかった。
 その夜、結構な量の雪が積もっていたため、猫背ちゃんと猫背くんは実家に泊まることにした。母親も新しい父親も猫背くんの猫背をたいへんよく褒めてくれ、猫背くんの人柄も気に入ってくれたようだ。猫背ちゃんと猫背くんはかつて猫背ちゃんの部屋だった二階の四畳半の部屋に布団を敷き、手を繋いで眠った。ヒーターを消すと布団から出た顔が凍りつきそうになるほど寒い夜だった。猫背ちゃんはえんがわの夢を見た。「もう心配せんでええよ、あんたの猫背は世界一やで!」とえんがわは笑っていた。明け方目が覚めると、涙で顔が凍っていた。それをぺろぺろと舐める感触があった。これはえんがわだと思った。そのまま猫背ちゃんはまた眠りについた。
 翌朝、猫背くんの運転で学校がある町へ帰る途中、猫背くんは昨日見た夢の話をしてくれた。猫背くんの夢にもやはりえんがわが登場して、「二人で宇宙一の猫背目指してや!」と言われたと笑った。そして家に帰り着き「一緒に猫背で幸せになろう」と猫背ちゃんにプロポーズをした。猫背ちゃんは泣きながら「はい」と返事をした。
 猫背くんは今、完璧な猫背を作るためのプロテクターを作る会社でデザインをしている。猫背ちゃんのお腹には双子の猫が宿った。出産予定日は奇しくも一月だ。妊婦の猫背ちゃんはより一層背中を丸め、猫背くんの帰りを待っている。えんがわはもう夢に出てきてはくれないけれど、えんがわが褒めてくれた猫背はまだまだ健在だ。




「りんぱ」「まぐろ」「猫背」三部作終わり。
なんかよくわかんないけど最後いい話になったからいいや…

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原発牛乳
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女性
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1984/09/21
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おひるね
自己紹介:
かわいい女の子の写真を撮ったり行き過ぎた妄想を小説にしたりしています。
名前はアレだけど別にこわい人じゃないです。
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