猫背から生首まで
1000文字小説というサイトに、数年前しょっちゅう投稿していたときの作品です。
2010年6月に書いたやつ。
自分の小説を不特定多数の誰かに評価される、という行為をそれまであまりしたことがなかったので、とても心が折れました。
でもすごく好きなサイトでした。
今もあるのかな?
「ピーチネクター」
朝から凄まじい雨で、こんな日に宮沢さんを呼び出したことをひどく申し訳なく思った。
「びちゃびちゃだよー」
そう言いながら下駄箱の前で傘を振り回す宮沢さんに、僕は散々謝った。ごめんねこんな朝早く呼び出して、ジュース奢るから。そんな簡単な謝罪でも笑いながら許してくれる宮沢さんが僕は好きだ。真っ黒な髪の毛、真ん丸い瞳、捲った袖の先から伸びる細い腕。性格も良い。
玄関の時計は七時を回ったところ。購買の脇の自販機にお金を入れて、コーラのすぐ下のボタンを押したらピーチネクターが出て来た。
「うわ懐かしい! 私これがいい」
はしゃぐ宮沢さんにピーチネクターを渡して、もう一度小銭を入れる。コーラはやめて緑茶にした。またピーチネクターが落ちて来た。
「何これ、もしかして全部同じの入ってんじゃないの?」
「そうかもね」
仕方なく僕も赤い缶を拾い上げる。ピーチネクターを最後に飲んだのなんて、何年前だろう。
僕たちは教室がある三階まで他愛もない話、例えば昨日の課題は終わったか、とか、数学の林の喋り方が気持ち悪い、とか、そういう話をして上がった。宮沢さんはころころと笑う。花が開くように、ポップコーンが弾けるように。とても可愛い。抱き締めたくなる衝動を抑えるのに僕は必死だ。
誰もいない教室のカーテンを開けて、窓を開けると、雨のにおいが肺いっぱいに広がる。
「話って何?」
缶を開けながら宮沢さんが聞いた。そのしなやかな手つきにいちいち見惚れてしまう。僕が黙っていると、携帯電話を取り出してメールを打ち始めた。誰に送るんだろう。少しだけ息が苦しくなる。ピーチネクターを喉に流し込んだ。甘ったるい。甘過ぎて吐きそうだ。
「宮沢さん」
何て素敵な響きだろう。ミヤザワサン。
「何」
「僕のものになってよ」
陳腐なセリフだ。生まれて初めての告白だと言うのに、それ以外に言葉が浮かばなかった。
「は? 無理」
「何で?」
「彼氏いるし」
「別れてよ」
「やだよ。私もう行くね」
怒ったような顔をして宮沢さんは鞄を掴んだ。その細い手首を握ると、驚いた顔がこちらを向く。
「離して」
「僕のものになってよ」
「やだってば」
振り解こうとする宮沢さんを無理矢理抱き締める。腕の中で暴れる宮沢さんは小さな子供みたいだ。なんて愛しいんだろう。
「やだ!」
宮沢さんの最期の言葉を聞いた瞬間、僕は白い首筋に手を掛け力を込めていた。やがて動かなくなった宮沢さんの顔面を、近くにあったゴミ箱で殴る。ガション、ガション、ガション。
頬が抉れて額が割れている。ゴミ箱の底は血まみれだ。急に喉が渇いてピーチネクターを手に取る。でも口にする気にはなれず、宮沢さんの上にじゃばじゃばと振り掛けた。血の匂いがどんどん甘くなる。
真っ赤に染まった宮沢さんの唇に自分の唇を押し当てると、さっき飲んだピーチネクターの味が戻って来た。キスがこんなにも甘いことを、僕は生まれて初めて知った。
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プロフィール
HN:
原発牛乳
年齢:
39
性別:
女性
誕生日:
1984/09/21
職業:
おかあさん
趣味:
おひるね
自己紹介:
かわいい女の子の写真を撮ったり行き過ぎた妄想を小説にしたりしています。
名前はアレだけど別にこわい人じゃないです。
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